妙心寺?心妙?記の肆

 仏教では五正色(ごせいじき/ごしょうじき)といって青、黄、赤、白、黒が特別な色とされている。解釈は諸説あるが、以下に例をあげる。(「仏事の知識」湖彦山(こげんざん)広厳寺(こうごんじ)/新潟県胎内市を参考にした)

「青」はお釈迦さまの髪の色で、心の落ち着いた状態、禅定をあらわす。
「黄」は身体そのもので、不動の姿、金剛身。
「赤」は脈々と流れ、止まることのない釈迦の血液の色、常の精進。
「白」は清らかな歯であり、清浄心
「黒」は釈迦の聖なるお体を包む袈裟の色で何ごとにも堪え忍ぶ、忍辱(にんにく)を表現している。

 もうひとつあげる。三瀧山不動院のサイトによると、真言密教における五色とは金剛界曼茶羅の五仏に関連し、白は中央の大日如来を、青は東方の阿〓如来を、黄は南方の宝生如来を、赤は西方の阿弥陀如来を、黒は北方の不空成就如来を表わし、それぞれ空、地、火、水、風を表わす。(住職の話/06年10月/五色の幕

 二番目の三瀧山は仙台の繁華街にあって、以前、福(商い)の神様仙台四郎を訪ねたことがある。(拙ブロ:仙台四郎/08年1月31日付)

 「五不動」につながるのであろう。(拙ブロ;三郎、07年5月15日付)

 少し覚えにくい。

青/空/東/阿〓(あしゅく)如来目青不動天台宗数学院(世田谷区太子堂)、もとは青山南町、その前は麻布谷町(現在のアークヒルズ辺り)。
黄/地/南/宝生(ほうしょう)如来目黄不動天台宗永久寺(台東区三ノ輪)と元・最勝寺墨田区東駒形)。※
赤/火/西/阿弥陀如来目赤不動天台宗南谷寺(文京区本駒込)。
白/水/中/大日如来目白不動真言宗豊山派金乗院(豊島区高田)。もとは新長谷寺(文京区関口)
黒/風/北/不空成就(ふくうじょうじゅ)如来天台宗滝泉寺(目黒区下目黒)。

天台宗最勝寺は現在、江戸川区平井にある。また、目黄不動として龍厳寺(渋谷区神宮前)の名もあがっている。

 整理すると、

       北(目黒)
西(目赤) 中(目白) 東(目青)
       南(目黄)
  
 という具合になるのだろうか。明らかに江戸の方位と異なっている。

 三瀧山のサイトにはもうひとつ紹介されている。「五行説」である。これによると、

       北(目黒)
西(目白) 中(目黄) 東(目青)
       南(目赤)
  
 である。両者の方位は青(東)と黒(北)は一致している。他については、黄(南→中)、赤(西→南)、白(中→西)と微妙に異なっている。(いずれも前者が五仏→後者が五行説

 少しいじってみた。北が固定されているので、目黒不動に向けた。実際の位置とは逆転すると考えてよい。このような「いじり」はよくある。方違えは転居、詣などの際に行なう「いじり」である。例えば、Aへ伺うとき方位が悪い場合、わざわざ良くなる場所に移って、そこからAへ向かうという行為である。オジサンたちがまっすぐ自宅に帰らず、呑み屋に寄るのも方違えなのかもしれない。
 背振りという言葉はなかっただろうか、辞書で探しても見つからない。背と腹を振り替えるということでもないが、南を北に見立てて、上記の五不動を回転してみた。地図上では南の目黒不動さんを北とし、南は北の三ノ輪か東駒形、東が西で、西が東というような作業をしてみたが、うまくはいかないし、あまりこだわることもない。

妙心寺の五色幕]※撮影箇所不明(相変わらず、メモをとらない悪いクセ)

妙心寺のサイン

 妙心寺でみた五色幕である。緑・紫・黄・赤・白・緑・紫。・・・の順となっている。紫は黒、緑は青の代わりと三瀧山のサイトにあるから、置き換えると、青・黒・黄・赤・白・青・黒、五仏、五行説と異なる序であるが、そのことは気にならない(緑→黒、紫→青の説もあるが方位から考えると、緑は東=目青のようである)。美しいという想いから撮ってみた。気がつかなかったが、法堂(はっとう)の五色幕妙心寺のサイトにある。素的である。

 不確かなことはいえないが、五は基本であると、今キーを敲いている手をみると五指づつ。五体満足ともいう。それをだいいちに望むであろう。ほかに五味、五感、五官、五経、五倫など。ちなみに佐久間象山が神田於(お)玉が池に開いた象山書院は五柳精舎ともいう。五柳先生(晋末の詩人、陶潜/淵明)を標ぼうしたのであろうか。

 冬(大晦日)の都を訪ね、妙心寺を中(白/黄)にして、東(青)西(赤/白)南(黄/赤)北(黒)から煩悩鐘のサラウンドを聴いてみたい。

 妙心寺の記は、これで晦(つごもり)とする。ただし、ふたつほど微妙記として、このあと記すつもりである。