一目千本桜(備忘)

 桜色は新幹線の高速度車軸がひと回転するごとに深まっていく。山の高みは春衣裳のつもりか薄絹を羽織っていた。軸が何百万と回転したのであろうか、さらに緩慢な車輪の在来線に揺られて、わたくしが着いた先には「花」。
 あいにくの空模様であったが、それが幸いした。独り占めに近い状態でその下へ。まるで花嫌いのわたくしを諭すように迫ってくる。

 『この冷たい雨が夜半まで続いて、花もお仕舞いですね』

 別れ際に堤まで送ってくださった方が仰言られた。

 往きに越河の峠あたりで舞っていた雪も復(かえ)りには止んでいた。

一目千本桜