牛に惹かれて(丹南、日置荘、萩原神社)

 14日午後の新大阪駅は「鉄の街」となっていたが、翌日は本物の鉄の町である堺市へ所用で向かった。といっても、先は内陸部であり、鉄っぽさはない。もっとも、周辺の地名である日置(ひき)荘(しょう)は縄文時代から存在したらしく、また奈良期頃に現れた河内鋳物師(いもじ)もゐるから、土をちょっと掘れば鉄が出てくるかもしれない。最寄りは南海高野線「萩原(はぎはら)天神」というこじんまりとした駅である。名前の通り、すぐに天神様が祀られていらっしゃる。萩原(はぎわら)神社と謂う。以前、ニュースでみた泣き相撲とは、同社のことかと初めて知った。

萩原神社の泣き相撲](同社サイトより)

 境内は駅同様に小さくまとまっており、10分もいれば済む程度であるが、お牛様に惹かれた。天神様(菅原道真公)とお牛はたいへん親(ちか)しい間柄である。ひょっとしたらヒンドゥー教並みではないかとも勘違いするほど、色々と牛さんと天神さんにまつわるお話は多い。

[お牛様2体]※御(後)光が射している(実は逆光)

萩原牛

 由緒碑によると、先の大戦で供出された(唐金〜青銅製の)先代に代わって戦後、ご子孫の方が再建されたそうである。そのお隣にも一体のお牛様が、こちらは石造りであるので、軍に取り立てられることなく、ずっといらしたのであろうか。台座に銘が彫ってあるが、判読不能である。

[おいしのおうし]

萩原牛3

[不明な刻文]

牛由緒

右の行から
□□□□
□北田□
熊   吉

 とも、読めなくはない。なお、萩原神社は「はぎわら」とする場合が多いが、最寄り駅名と同じく「はぎはら」とする例(JA堺市のサイト)もあった。気になり、同社に電話したが、お留守らしいので、メールにて、正しい呼び名と石牛の台座にある銘について、問い合わせている。同社にとっては迷惑な話ではあるけれど。

 所用を終え、往きと道を変えた。方向音痴のわたくしであるが、右斜め(北東)に向かえば良いのだろうという勝手な思いでもって、とりあえず、北をめざした。日置荘西町の落ち着いた家並みを歩きながら、「ため池」にでくわした。この辺り、あるいは堺市には飽きるほどため池があるので、珍しくはない。中には干上がった池もあり、どうも、宅地開発の進展により、役目を終えた農業用水池に家庭排水などが溜まり、ヘドロと化し、汚臭対策のため、水をぬいたふしもある。浚渫して、革めてキレイな池にしようという取組みも始まっているようである。(ため池オアシス堺市サイトより))
 灰原池とあとで電子地図で確認した。ついでに記すと、隣は坊ヶ池、さらに新池があって、阪和道沿いにある今池が干上がっていた。単純に、上記の順番で掘られたのかと想像してみる。周辺は鋳物師の里である、当然、土師(はじ)もいて、それらから大量の灰や不良品が出て、野に積まれる、その状態を灰原という。適当な原がないので、池を掘って、埋めていたのが灰原池、廃棄物とともに生活雑廃で埋め尽くされて、悪臭を放つ(灰原)池をみかねて、地の坊主が新しい池を掘って、それでも足りなかったので更に土を削って、新池を、今池はもっとも新しいのであろう。もちろん、そのようなことは(わたくしの拙頭)のほかにはない。

[水速女大神]

萩原近くの浮宮

 池の突先にお宮さんがあった。のちほど検めると、水速女大神とある。水の神である水速女命(みずはやめのみこと)を祀っているのだろうか、残念ながら、施錠されており、「奥」には立ち入ることができなかったが、この浮き宮は荒ぶる川を鎮めるためにあるのではなく、新なる水を求めて、ご祈願した住民の想いを具現化したものなのであろうと、妄想ばかりしながら、三度ほど駅への道を尋ねながら、三国ヶ丘行きの電車に乗ることができた。結局、迷っていたということである。

[ここにもお牛様]※西町水利会館敷地内

公民館の牛

[萩原神社内の背丈比べ器]

萩原背丈比べ

 関西を訪ねた場合、「粉モノ」を食す必要もある、という思い込みを実践した。初日(14日)は宿近くで「お好み焼き」(牛スジ入り)をいただいた。二日目は乗換駅で「焼きそば」を。いづれも、苦手なソース味ではあるけれども、お酒で飲み流した。焼きそば屋さんにはたこ焼きもあって、6コ300円とあり、テイクアウトされている方が8コでいくらと聞いていた、単純で400円(イッコ50円)、ならばと、サンコ(150円)下さいと頼む勇気はなかったけれども、おなかも限界であったし、食べた気になって、これから向かう岡山へと急いだ。

 昨日の喧騒は新大阪駅になく、寝むたいものだから、寝過ごしても、おそらく起こしていただける岡山行き「ひかり」に乗って、途中で何度も後発に抜かれつつ、鈍牛のように各駅に停まりながら、溜まりながら、終点駅に吸い込まれた。

 明日は、久しぶりに、終着駅と出逢う。