団体化学

 今朝、所用先に向かう電車のはす向かいに座った青年が、バッグより厚めの書籍を取り出し、読み始めた。眺めていると、表紙がわたくしから見える位置にあり、みると、「入門 団体化学」とあった。そんな本も出ているんだなぁと、再び、みると、「固体化学」であった。このところ、群衆だの、大衆だわ、公衆とは、などということに頭がいっているせいであるのだけれど、考えてみれば、群衆が何かの加減で化学反応を起こして、公衆になることも、ありえないことではないか、と、ひとり、満悦して、ある途中駅で彼が降りていくのを、また、眺めていた。
 わたくしは、まったく混んでいない電車をさらに終点まで向かったのであるが、停車した折に反対側のプラットホームで待つ人たち、ならびに滑り込んできた上り電車の混雑ようをみながら思ったことは、満員電車の中でもまれている「乗客」がぶつかりあっているうちに化学反応を起こさないものかどうかという、やはり、先の思いつきと同様のひとり勝手な妄想であった。
 戻って、固体化学なるものを検索してみたが、これはもう、どうにもならない世界であることが、ずらっと並ぶ検索結果の一行解説をみているだけで、そう思った。