1+1¬2

 電車内で立っていると、つい車内広告に目がいくけれど、自分の頭のかたさを思い知らされるのが、日能研である。もう、ずいぶん前から、幼・小・中の入学試験問題などを紹介しており、以前は、下方にひっそりと、解答例も掲載されていたのだけれど、いつのまにか、こっそりと、それすらなくしてしまったので、「かたい」わたくしにとっては、すっきりしないまま電車を降りることとなっている。難問奇問も多いけれど、これらも含め、わたくしは完全お手上げという場合がほとんどである。下記は神奈川県伊勢原市にある自修館中等教育学校(つまり、対象は小学校6年生)の2005年の問題だそうであるが、ちょっと、気になったので、頭の中に留め置き、初めてのことであるが、日能研のHPをのぞいてみた。みたのは昨年末のことであるから、もう同サイトにもないかと案じたけれども、再度確認したら、まだ、あった。その概要を示すと、以下のようになる。
?ポケットに納まる自動車を吊り上げることのできるほどの強力な磁石
?はさみで切れるが、引っ張っても擦れても切れないロープ
?毛穴より細い糸
?厚い鉄も簡単に切れるハサミ
?熱でもとけないラップ
?水を凍らせるスプレー
?一瞬で温度を自由自在に変えることのできるバーナー
?光る輪ゴム
?水に浮くガラス
?出た泡がそのまま固まるスプレー
という10項目の「仮想・新発見」がまず挙げられ、次に、問題が示されている。
問題は、何(各番号)を、どのように使って(使い方や材料)、どのようなことをするか(使いみち)を考えて、なるべくたくさん書きなさい、というもので、さらに良いのは、書かれていない道具を一緒に使ってもかまいませんというところに、寛大さ、寛容さ、あるいは将来性を感じた。同時に、この問題には正解という枠組みはないのであろうという自在さ、奔放さも感じられた。上記の日能研HPでもって、出題された学校側の意図、また、解答(正解)例も出ているが、以下は固い頭でもって、わたくしが、サイトを見る前に考えた答え。まったく、つまらない。
?を使えば、コヨリ状に巻いて、毛穴の中にたまった余計な油脂や汚れを取れるかな?
?の上でもって、(お酒でも呑みながら)海底のサンゴ礁をじっくり、ぼっーと眺めていたい。
?切れ味の鋭いはさみを切ることもできるのだろうか。解答にはならないけれど、金庫破りが容易になりそうで、心配をしている。
?は登山者には朗報かな。
?と?と?を組み合わせれば、旅先(特に冬の日本海など)で求めた新鮮な魚介類を?で包んで、?で冷凍、帰宅後、?で解凍して、お酒とともにいただく。ただし、?の温度調整がマイナス世界まで可能であれば、?は不要ともなる。

 どれも、どうでも良いような解答、もしくは、妄想に近いけれども、このような出題をすること自体にたいへん、共感をもつのは、正解がない(無限大)と高をくくっているせいなのであろうが、それにしても、素的なことだと思っている。同じように車内でみた正しい日本語の類を嘆いている書籍の広告には、↑上記の緩やかさが感じられない。言葉は言霊(ことだま)というけれど、それは発する側の事情というか、気もち、また、具現的な所作をもって、そういうのであって、言葉自体は何の意味ももたない。とおりすぎるでも、とうりすぎる、でも、その発せられた人の意図を汲んでさえいれば、あるいは、その人の気もちさえあれば、どちらでも良いではないかというように思うのであるが。1+1は2になるけれど、そうでない(¬)こともある。そういう、柔らかさを教えてくれたようで、この日ばかりは、すっきりとした心もちでもって、所用駅で降りることができた。
 同サイトをみると、当然ながら(失礼ながら)、日能研の解答例よりも受験生のそれらの方に優れた発想がいくつもあり、ただただ、感心するばかりであった。