粉もの=POW’ER FOODS

 難波宮を後にして、宿で荷物を引き取ったけれども、東下りする前に、これもまた気になっていた場所へ行くこととした。
 古い構えのお好み屋さんである。入ると、幸い、一人席が空いていた。小学校時代の机幅程度の真ん中に鉄板が嵌めこんであって、席と席の間は板壁で仕切られているので、ちょっとした個室感覚である(まるきり、視られているけれど)。大阪では珍しい自身で焼く方式である。あとから入ってこられた方が、それに戸惑ったのか、ご店主と二言三言やり取りを交わしたのち、焼きそば(太麺でこれも美味しそうであった)を頼んでいらした(焼きそばはご店主が別の鉄板で焼いてくださる)。わたくしはというと、小学校時代のミルクパンみたいな容器に盛られてきた食材をみるまで、自分で焼くとは気づいていなかった。
 お知り合いに関西の方がいて、何度かお宅でお好み焼きをご馳走になっていて、わたくしのお師匠のような存在である。粉にヤマイモを混ぜるというのもここで知ったし、お好み焼きというのは、ほぼキャベツ焼きと考えた方が良いという教えが、パンを見て、納得できた。わたくしは基本的にゴチャゴチャが嫌いなので、この時も豚玉というあっさりして、面倒のない「ゐの一番」を注文している。拙ブロ「妙心寺」(09年2月19日付)で阪神梅田の地下で頼んだのも、ブタタマ(ただし、ヤキソバ)。要するに、探究心がないのである。
 さて、パン内の具を執拗にかき混ぜて、十分と温められている鉄板の上に、先ず豚肉を・・・と、うっかり教えに背いて、パンの中で一緒に混ぜてしまったため、粉やら芋やらがずいぶんと付着していて困惑した。お師匠宅での記憶では豚肉は別にしておく必要があると今更ながら後悔した。仕方がないので粉・芋を可能な限り削ぎ落とし、熱板の上へ。豚さんの焼き具合を見計らったところに残りを均等、やや薄めに被せてみる。一応、成功かと、熱く(温く)ならないようにと、鉄板からずいぶんと離れた場所に置いたビール瓶を手探って、呑みながら、片面の焼き上がりを待つことにする。教えの弐はここで決して押さえないこと。じゅぅじゅる〜と立つ音に当てずっぽうに反応して、大小諸のコテでもって、いよいよ勝負のときである。これは成功した(ヨカッタね)。もう一片を焼きあがるのを待ちながら、ビール(二本目)を呑む。ただし、ここで、大きな失敗をした。
 ふたつある。
 ひとつは、順序の話であり、ひっくり返したお好み焼きの面に、削り粉⇒青海苔粉を粉してしまったことである。言い訳をすると、わたくしは左利きなので、左端から取ろうとすると、そうなる。これが間違いであった。普段、醤油しか使わないので、それで良いのであるが、ここでは、恐〜い(そうな)ご店主がいらっしゃるものだから、醤油・・・とは言えなかったので、泣く泣くソースをと思い、備えてあるハケに少しだけソースをつけて、焼き面にと思ったけれども、それができないことに気づいた。すでに、削りと海苔が、、、

 大阪名物「串揚げ」の鉄則に二度づけ禁止というのがあるらしいが、只今の場合もハケに削り、海苔を付着させるわけにはいかないのである。

[小学生机の前面はこのように配置されていた]

お好みやき1

 左から「削り粉」「青海苔粉」そして「ソース」だったと記憶している。写っていないが、さらに右に「油」だったか?

 そして、ふたつめは(お師匠さんの)第三の教えにそむいている。
 
 お好み焼きは、決して、「蓋をしてはならない」
 
 そうすることにより、焼きが失せ、蒸しとなるからである。それ以前は、天蓋を被せていて、お好み蒸しを食べていた、と、教えで初めて気づいた。その訓を見事に破ってしまった。

 実際には、強(こわ)そ〜うなご店主がツカツカと近づいてきて、「あ〜あ」と、「まだ、早すぎるわ〜」と、ひっくり返して、すぐにツマミ出したわたくしを諭して、少しの水を足して持ってきた蓋をボサッと。
 「待ちきれなくて」
 と、言い訳すると、想外に優しい笑顔でもう少し、待ちなはれ、と。
 
 少し、恥ずかしかったけれど、美味しく「お好み蒸し」を頂いた。ご店主、そして、お店のお味が沁みている。

 くどくど記してきたが、わたくしはソースが苦手ということを知ってほしかっただけのことである。ただし、ぎりぎりがあって、
 焼きそば ⇒ △(まあ、我慢する。できれば、醤油か塩でΩ)
 たこ焼き ⇒ ○´(大丈夫だけど、近頃は醤油・塩味もあり)
 お好み焼き ⇒ ×(基本、醤油で、上記お師匠宅においてもワガママを通している、また、お店では普段ネギ焼きしか、注文しない〜これは醤油ベース)
 ところが、この数週間は全てを受けつけるようになっている(なってしまった)。これを、齢による味覚の変化といってよいのか、単に面倒の臭さが増しただけのことであるのか、拙頭では到底、結論は出ないけれども、これまで、馴染めなかった領域へ一歩踏み込むことは、それはそれなりに、楽しいと、思うようにしている。

 2月11日、京を去る前に、お好み焼きを食べた。スジコン・ネギヤキである。

 粉もの(POWDER)でPOWERをいただいた気分で東に、

 以上、旧い事柄である。