神町へ(3)〜若(おさな)きココロ

 若木(おさなぎ)山をあとにすると、通りをはさんで、市街地があり、その鳥羽口に神町(じんまち)小学校がある。あまり、うろちょろすると、怪しまれるので、外側から、周りを眺めてみたが、校門前に定番のお店(文具、雑貨、食品などを販売する)がなく、もう、商いを閉じてしまったのかもしれない。それにしては、人口1万人程度の町ながら、神町小学校HP(TOP右カラムの学校紹介をクリック)によると、児童数は県内3位であり、自衛隊の駐屯地があることから、「出入り」も激しいそうである。商売を十分、続けていけそうな気もするが。
※児童数855人;06年5月1日現在、東根市による
東根市の人口は約4万6千人である、そのうち神町地区に1万人が住んでいらっしゃる
 阿部和重さんのグランド・フィナーレはその定番店(文房具屋さん)を主な舞台とする。実際に、あったのかどうかはわからない。ただし、阿部さんの生家は通りにあるベーカリーであると、のちほど知る。遅い、朝・昼食をと思い、通りに出て、右に駅方向へ向かおうと思って、ふと、左を振り返ると、書店の文字が眼に入り、転換した。あすなろ書店という。小学校の近くにある本屋さんの名に似つかわしい。中に入って、阿部さんの作品を探すが、中央あたりの書棚には一切ない。もっとも文庫本ばかりであって、奥に、と思い、進むと、ここはコミック本ばかりである。カウンター脇には文具もあり、どうやら、定番の店の一部を担っているようだ(飲食は取り扱っていない)。ないのか、と、(中央)書棚の裏に回ると、単行本が並べられていて、そこに小さな阿部コーナーがあって、おそらくであるが、全作品が置かれている(文庫本も)。というよりも、飾られている。グランド・フィナーレを手にとり、めくると、直筆サインもあったので、
「あのう、ここのは販売されているんでしょうか」と、ご店主におうかがいすると、
「はぁ〜、もちろんです」と、不思議がられた。
 それではと、一冊持ったまま、支払いをして、「きれいに飾ってありますね」と《冷やかす》と、
「阿部さんの実家は、前のパン屋さんです」と、言って、ドアの向こう側を手差しでもって、教えてくださった。まだ、食事前だったので、ここへ入るときに見かけて、思わず、寄ろうと思ったお店である。
 ちょっと待っててくださいと、阿部コーナーに戻っていかれ、手づくりの「シンセミア地図」を一部、どうぞと、くださったので、みると、そこに、まだ、読んでいないこの長編小説に登場する「パンの田宮」が阿部さんの生家、そして、向かいが「金沢書店」、あすなろ書店であると分かる。書店の隣に銀行(今もある)があって、その隣が映画館であったと、インタビューで阿部さんご本人が答えている。今は、もうなく、コンビニがある辺りのことであろうか。
「ここから飛行場は見えないのですね」と訊くと、
「離着陸は見えますが、残念ながら・・・。向こう(駅の西側)に大きな通りがあって、空港と隣接しているのですが、高い壁で遮られています」
 わたくしは、大きな思い違いをしたまま、神町まで来ていた。神町駅から、飛行場は見えないのである。
神町駅から飛行場の方向を]※見えないけれども・・・
神駅裏画像0024

 本来の目的を果たせないまま、その土地を去るのは、寂しい限りであり、後ろ髪を思い切り引っぱられている感じであるが、今回は、それほどでもない。むしろ、少年が、自分だけの「秘密の城」を見つけて、(誰にも教えずに)ひとりで、わくわく、にやにやしているような、若(おさな)いココロに還ったようで、楽しい。ただし、皆さんには教えてしまったけれども・・・。
 折角だから、シンセミアを読んでみようかと思うが、さて、単行本にしようか、文庫本の方が旅先で便利だろうか、ずいぶんと悩んでいる。
神町駅舎]
駅舎画像0021

無人駅の待合]※本場の山形語を知ることができる
駅待合画像0023

 これから、所用で出かけるので、その間に、どちらにするかを決めて、夜には、手許に置いていると思う。
(終わり)