本牧

 といっても、まだ行ってはいない。
 前日、御徒町の摩利支天を訪ねる駅からの道すがら、鈴本演芸場の脇を歩いた。ここは以前「本牧亭」と称していたはずだけれど、と、思い、早速ネットの検索を。鈴本演芸場のサイトに歴史というページがあり、前身の本牧亭は上野・不忍池界隈の風景が横浜に似ており、近くに金沢という菓子屋があったから、ここは本牧あたりでどうだ、と、命名されたとある。「ふなべた」(拙ブロ05年1月28日付)のお話をしてくださった新潟のご主人の顔が浮かんできた。わたくしはまだ演芸場に行ったことがないことを正直に申告したが、大学生のお子様を訪ねるたびに寄席に行っていたとのこと、もう卒業されて、故郷に帰られたのか、それとも、そのまま東京で就職され、寄席に来るご両親を手あつく迎えているのだろうか。
 高校時代、ラジオで志ん生さんの落語をたまたま録音した(前の番組のついで)ので、それを繰り返し聞いているうちに、憶えてしまったのが、『ちはやふる』である。在原業平の「ちはやふ(ぶ)る 神代(世)もきかず龍田川(河) から(唐)紅に水くくるとは」という小倉百人一首にもでてくる有名な歌であるが、その意味を問われた物知りの御仁が、本当は知らないものだからと、厠に逃げ込んで、聞きに来た者が諦めて帰るのを待ったりするのだけれど、帰らない、仕方なく、知ったかぶりをするという噺。学校での話なんかは禄に覚えなかったけれど、コレは今でもなんとなく諳んじられる。おおむねは、以下、サイトをのぞいていただくこととしよう。『発掘・日本の言葉遊び』(小林祥次郎氏)(日国.NET/日国フォーラム)
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(※山東京伝の作らしいけれど、微妙に噺は変わっていて、私が聞いた「水くくる」は確か豆腐屋の井戸だったと思う、諳んじているなどと書いたけれども(↑)、あいまいな記憶でしかない)
 おそらく、文字を追っても「ぴん!」と来る要素が欠落していると思われるけれど、志ん生さんの独特の口調でもって、うかがうと、何倍も何十倍も膨らんだ世界となる。
 本牧と上野。似ているかどうかは、行ってみなければ分からない。

 最後に業平の歌を二首。

世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

さくら花ちりかひくもれおいらくのこむといふなる道まがふがに