ナタアシア i  ソオニア

 青空文庫には400人以上の作家、5,000を超す作品が収録されている。閑に任せて、作家別に公開作品数を数えてみた。といっても、エクセルに数値を入力して、ソートしただけ、したがって、間違いも多かろうと思う。
青空文庫の作家別公開作品数】※05年11月19日現在
?宮本百合子1,021
?寺田寅彦241
?芥川龍之介240
?太宰治196(黒木舜平1含む)
?海野十三142(含む佐野昌一9、丘 丘十郎5)
?岡本綺堂135
?夢野久作117(含む杉山萠圓、海若藍平、かぐつち みどり、香倶土三鳥、萠圓、萠圓山人、三鳥山人、計19)
?与謝野晶子113
?森鴎外109(含む森林太郎23)
?田中貢太郎107
?夏目漱石100
?宮沢賢治99
?泉鏡花72
?岡本かの子69
?新美南吉63
 いずれも著名な物書きばかりであろう。
10番目の田中貢太郎(たなか・こうたろう)は、怪談噺が得意のようで、わたくしは回避。泉鏡花もそれに近い作品があるけれども、こちらはOK、わがままな読者である。海外作家ではドイル・アーサー・コナン17、グリム・ヴィルヘルム・カール10、グリム・ヤーコプ・ルードヴィッヒ・カール10、ラティガン・テレンス・(メルヴィン)9、ポー・エドガー・アラン8などで、逆、いや、中、後、前の順で読んだ方が分かりやすい。グリムは兄弟(ヤーコプが長兄)、ともに10作品とあるが、共著なので、内容は同じである。
 さて、芥川龍之介は作業中129もあり、これからも楽しみであるけれど、本日は、公開中のひとつであるが、作品ではなく、氏の著作がロシヤ語に翻訳された際の短いあいさつ程度の文章である。題名は『露譯短篇集の序』、以下、一部を引用する(青空文庫)。
《わたしの作品がロシア語に飜譯されると云ふことは勿論甚だ愉快です。近代の外國文藝中、ロシア文藝ほど日本の作家に、――と云ふよりも寧ろ日本の讀書階級に影響を與へたものはありません。日本の古典を知らない青年さへトルストイドストエフスキイやトゥルゲネフやチェホフの作品は知つてゐるのです。我々日本人がロシアに親しいことはこれだけでも明らかになることでせう。(中略)若しわたしの作品の飜譯を機會にそれ等の天才たちの作品もロシア人諸君に知られるとしたらば、それは恐らくはわたし一人の喜びだけではありますまい。この文章は簡單です。しかしあなたがたのナタアシアやソオニアに我々の〓妹を感じてゐる一人の日本人の書いたものです。どうかさう思つて讀んで下さい。》
 本日の本題は前著に出ている二人の女性の名前についてである。ナタアシア(ナターシャ)は『戦争と平和』(トルストイ)であろうか。ナタアシアはロシヤではごくふつうの名前であるから、例えば、チェーホフの『三人妹』にも登場するように、油断はできない。また、ソオニア(ソーニャ)と聞くとまずワーニャの姪かと思うが、奇を衒って、もしかしたら、『罪と罰』(ドストエフスキー)に登場する方なのかもしれない。拙ブロ『溺れる者…オブローモフとは』(05年11月19日付)に書いたルーヂン(ツルゲーネフ著)は、前記、罪と罰の主人公ラスコーリニコフの妹(ドゥーニャ、あるいはドーネチカ、正式名はィエブドキーヤ)を愛した男の名前でもある。で、ラスコーリニコフ(←は姓、名前はロージャ、正式名はロジオン)が深く関心を抱いた娼婦の名前がソオニア。ソオニアをもっと愛くるしく呼ぶとソーネチカ、惹かれると、そう呼ぶのだろう。ところで、ロシヤ人の名前には正式名称と愛称があり、ふつう後者で呼び合っている。ワーニャ伯父さんの正式名はイワン、ナターシャはナターリア、ソオニアはソーフィア、ツルゲーネフ側のルーヂンの名前(正)はドミートリ(愛称ディーマ)、罪と罰の方はピョートル(愛称ペーチャなど、※宮本百合子には露・ソ連関係の作品も多いが、『ペーチャの話』というのもあった。)オブローモフイリヤー(愛称イリューシュカ)である。ロシヤの小説を読んでいると、登場人物が多すぎるという印象をよく聞くけれど、その原因のひとつに、一人の人物が名を変えて、出てくることもあろう。あるロシヤ人が「わたしはヴァロージャ?』と、わたくし?に自己紹介をする、その気でいると、誰かほかの人?が来て、彼をウラジーミル?と異なった名でもって、呼ぶ。えっ、と、思わず、ほかに誰かいるのかと振り向くかもしれない。で、別の人間?(以上をまとめておくと、わたくし、ヴァロージャ、ウラジーミル、そして、誰かほかの人、と、別の人間)が今度は、やぁ!ヴァロディンカ?などと呼んだりすると、もう、そこには、やはり、ほかに、わたくしには見えないけれど、誰かがいるのではないかという気もちになっても不思議ではない。小説の展開の中でもそういうことが起きているので、実際よりも多く登場しているように、錯覚し、混乱する。整理すれば、?と?と?は同一人物で、?が正式名称、で、??は、わたくしには見えない二人、?の愛称である。では、?の人が前述したイワンだとしよう・・・複雑になるので、とめておこう、とにかく混乱を招きがちなロシヤ人の名前のしくみである。
 (と、書きながら、ナンデあるが)わたくし、また、皆様方も、ブログやサイトあるいはメールアドレスでもって、いくつかの名前を使い分けているわけであり、以前書いた暗誦番号(=パスワード、05年7月16日付)も含めると、ロシヤ人の???以上に複雑な構造に陥っているともいえ、ややこしい世の中になったと、この拙ブログを書きながら、繰り返し、思う次第である。
 さて、青空文庫公開中、ロシヤ人作家を数えてみると、ゴーゴリ3、トルストイ2、チェーホフプーシキンツルゲーネフドストエフスキー各1などである。ほぼ、芥川氏が、前記作品で指摘しているとおりであり、また、その、あいさつ文にゴーゴリが記述されていないところなど、粋でもある。