おにぎりを食むをんな

 最近、駅構内の通路で気持ちよさそうにおみ足を揉んでもらっている光景や車内でぱっぱっとお化粧をされているお姿をよくみかける。前者は、衆目の中(例えば、わたくし)で、よくリラックスできるものだなあと思いながら、前を通り過ぎている。後者は、決して、その行為をダメというふうには断じるつもりはないけれど、揺れる中、手もぶれず、よく描けるものだなあと、向かいの席で感心しながら、観察している。これらだけに限らず、ペットボトルの水を飲む(これは車内の席で)、美味しそうにアイスコーンをほうばる(これは歩きながら)…などの行為もあるけれど、わたくし的に、もっとも注目しているのは標題のおにぎり(おむすび)を駅構内の椅子、あるいは、通りで、歩きながら食べている女性たちである。わたくしは、そのことの良し悪しを書きたいのではなく、手にもっているのが、ハンバーガーや菓子パンあるいは栄養補助用スナックの類ではなく、オニギリというところにたいへん興味をもっている。拙ブログ6/15付でもふれたが「失われていくモノが新しい」という以前、拙HPで書いていた中に「おにぎり(おむすび)」という項がある。チョット引用すると、
《★数年前、東京・新宿の小田急駅に「おだむすび」という店が出来ました。開店当時、おにぎり好きのわたくしは足しげく寄っていました。当時、すでにコンビニなどでおにぎりは販売されていましたが、???と矢印にしたがって包装紙を剥ぎ、中にあるパサパサの海苔を本体に巻くという方式の商品ばかりで、美味しくありませんでした。おだむすびは海苔が適度に湿っていて、おにぎり本来の美味しさを保っていたこともあり、わたくしのみならず、買い物途中の主婦やサラリーマンの昼食で繁盛していました。週末には箱根にでも行くのでしょうか、旅装の中年客が持ち帰りの列に並び、嬉しそうに抱えて、改札口に向かう姿も見受けられました。
★ちょっと古い話ですが、15年位前にはおにぎり専門店というのが街にあり、たいてい、おば(あ)チャンが2、3人で店を切り盛りしていたものです。もちろん、おば(あ)チャンの「直(じか)握り」、たまに御飯を型に入れる「成型握り」の店に出くわすと、がっかりしたものです。
★町中にあるハンバーガーやベーグルなどのFF店でもおにぎりが食べられる日を心待ちにしております。…》(02.01.06記)
 上記を書いてから3年ちょっとが経ち、今では街中にその種の店が増殖し、わたくし的には、しめしめ、と、予想どおりになったという自己満足(精神的自己満腹感)と、(美味しい)オニギリがお気楽に手に入るという満足感でいっぱいであるが、それ以上に、食む女性たちをみると、近頃、食の嗜好に変化があるのだろうかという思いがする。「和」傾であることは確かなのであろう。街中を歩いていても、めだつのは洋ではなく和のような印象である。某コンビニにおける年間のおにぎり販売個数は約10億個、つまりココだけで一人につき1ヶ月イッコ近く食べられている(売られている)のだから、やはり、売れている!と思ってよいのだろう。ちなみに、農林水産省の『国民1人・1年当たり供給純食料』(むずしいなぁ…、要するにできた、お米から飼料用とか、来収穫期の籾用などを差し引いて、食料用にした分らしい…よけい分かりづらいか)によると昭和35(1960)年度のお米の消費量は114.6kg、で、平成15(03)年度は61.9kgであるので、おおざっぱにいえば半世紀で半減ということらしい。そのことは、ほかの食べ物が増えたのだから、十分理解できるが、ここ10年ぐらいは微減といっても差し支えなく、しかも、おにぎり(おむすび)用にどれほど振り分けられているかは分からないけれど、この微減の要因におにぎりが寄与していることは確かではないだろうか。食生活が和的(風)に向かっていることは事実ではないかと、少ないデータではあるけれども、うかがい知ることはできる。
 考えてみれば、これ(食)もひとつの繰り返し、積み移しであって、ハンバーガーなどはいっときのモノ、食の歴史という中では瑣末な事項で、いずれ、積み移しから落ち漏れていくのかもしれない。このことは、異文化を受け容れないというような考えのことをあらわしているのでなく、食というのは、そのような文化や価値観の手前に位置しているものであり、飽食といわれる時代に生まれ育ったわたくしたちは、あまりにも速い速度でもって、食のなんたるかをみつめる暇もなく、食の西洋化に走ってきたため、手前にある食という感覚、感性をもたないまま、ずるずると来ていたのかもしれない。それを思うと、「おにぎりを食む」はいったん立ち止まって食のあり方を考えたうえかとも想像できる。ただし、中身(具)がもしかしたら、ツナマヨやハーバーグだったりということだけのことかもしれないから、そう結論づけるには拙速すぎるのであろう。あえて、別の見方をすると、日本というのはNY発に弱いから、5th_ave.あたりで、E・Aの香りを漂わせながら、おにぎりを食んで歩いているニューヨーカー(をんなもヨーカーかな?)がいらっしゃって、それが伝播したのか?どなたか情報があれば、伝えてほしい気もする。
 「和食」…ここまで書いてきて、その定義が揺らいでおり、このことは、また書かなければいけないのだろうと、旬の蚕(ソラ)豆(残念ながら旬ではなく冷凍モノ)を食みながら(もちろん皮ごと食す)、妄想している。食に関しては、皆、一様に、思いが強いはずであるので、以上のわたくしの言など、何の意味もないことであろうが、これから旬の時季、自分にとって美味しいものをたらふく食めるよう、切に願いたい。
農林水産省「国民1人・1年当たり供給純食料」(平成14年度食料需給表より)※データは14年度まで、15年度は別資料(下URL)による。
http://www.kanbou.maff.go.jp/www/anpo/fbs/2-2-9.pdf
[平成15年度食料需給表(概算値)]http://www.tdb.maff.go.jp/toukei/a02smenu2?TokID=H001&TokKbn=B&TokID1=H001B2003-004